泥湯温泉

飲み屋街だ!
飲み屋なのか?蕎麦が旨い
危険地帯を抜けなければ
これが湯元か・・・
泥湯温泉が見えてきた
今晩の宿「奥山旅館」
素晴らしい温泉だ!
朝九時過ぎ、東京駅から指定された新幹線に乗り込んだ。今回は、JR東の秘湯「深山の宿」から適当に温泉を選び、「びゅう」で渡された切符と旅程表を持って出掛けることにしました。
 実は、今回の目的地「泥湯温泉」というのが、何処にあるのか知らずに新幹線に乗り、福島で車両を切り離すというアナウンスを聞き、初めて山形新幹線に乗っているのだと気がついた。そこで「びゅう」で渡された旅程表を見ると、山形新幹線を終着新庄で降り、奥羽本線に乗り換えて湯沢まで行くことになっている。ところが、新庄で乗り換えの待ち時間が一時間以上もある。しかたなく写真でも撮って時間を潰そうと駅から出ると、まだ梅雨の走りだというのに物凄い暑さで、優に三十度は超えている。それでも自称天才写真家の私は、習性というか本能というべきか、新庄の盛り場を目指して勇敢に灼熱の街を突き進んで行った。勿論酒を飲む為ではない。写真を撮る為だ。
 丁度今、藤原伊織の本を読んでいたので気合が入り過ぎた。写真を撮る為だというのは真実ではない。お婆ちゃんの遺言で正直に生きなければいけないと言っていたので、訂正しとこう。動機が何であれ私は初めての街に行くと必ずその街の盛り場を見に行く習性があるのだ。それも動物的感で必ずたどり着く。今回もいとも容易にたどり着いてしまった。しかし暑い。まだ身体が暑さに対応していないのだ。取りあえず、駅前に戻り喫茶店を探していると茶房「花のれん」と書いた看板を見つけ逃げ込んだ。まず抹茶ソフトクリームと珈琲を注文する。一息ついたところで、携帯で現在の株価動向を確認し、yahooの掲示板に新庄に来ていると書き込んでいると、列車の時刻が迫っていることに気づき、急ぎ駅に戻る。
 ここから湯沢までは二両編成のワンマン車両である。ワンマン車両といっても車掌が居ないだけではなく、ドアの横にあるボタンを押して、ドアの開け閉めを乗客が自主的にしなければならない。以前私はドアの前で開くのを待っていて、後ろの乗客からボタンを押してと言われたことがある。
 昼過ぎの時間なので乗客は多くはない。地元の高校生と温泉に行く5・6人の年配の集団が乗っているだけだ。私が窓の外の景色を何気なく眺めていると、畑やビニールハウスの中の木に赤い実がなっている。佐藤錦だ。そういえばここは山形だった。昨日のTVニュースで山形で佐藤錦が盗まれたと報道していたのを私は思い出した。そうかぁ、今はさくらんぼの季節なんだ。
 電車を湯沢で降りた。ここから泥湯温泉行きバスに乗ることになっている。バスの停留所は駅前の通りの左手にあったが、駅からは見えないので分かりずらい。バスの待ち時間は5分程なので停留所の中で待つことにした。と言っても3〜4人が座れるベンチが設えてあるだけだ。そこへ中年のご婦人がやって来て、なんとかという所へ行くにはこのバスでいいんですか。と私に聞いてきた。私も始めて来た土地で皆目解らなかったが、いいんではないですか。と適当に答えておいた。ご婦人は安心したらしく名古屋から来たと話しかけてきた。私も適当に話を合わせているうちに泥湯温泉行きバスが来たので一緒に乗り込む。ご婦人はひとつ空けた前の席に座り、途中何度か不安になるのか私の方に振り返る。その度に私は大丈夫という風に頷いてみせる。その内ご婦人は立ち上がり、私に向かってお辞儀をしてバスから降りていった。目的のバス停に着いたようだ。あって良かった。
 バスは山道を登り始める。何となく秘湯に行くという雰囲気になってきた。ある程度登りきると今度は下り坂になる。その時周りの景色が一変した。赤茶けた岩肌。バスの窓の直ぐ側から煙が吹き上がる。窓の下を見るとゴボゴボとガスが吹き上げている。何処を走ってんだコラァー!思わず心の中で叫んだ。バスの正面に何棟かの建物が見える。目的地に着いたのだ。バスから降りると幟が一本立っていた。栗駒山麓。秋田か・・。
 着いた時間が夕方の5時。ここまで来るのに一日掛かってしまった。取り合えず旅館に荷物を置いて陽のあるうちに外湯に入ることにした。玄関を入って受付で「びゅう」で予約したと言うと直ぐに部屋へ案内された。部屋は狭い。だが贅沢は言わない。旅館に入る前に周りを観察し、建物の構造から湯治場であるのを確認していた。部屋に通されると直ぐに料理の追加があったら注文してくれと急かされた。私はメニューから馬刺しと冷酒を注文した。
 外湯は「天狗ゆ」と「大野天風呂」がある。天狗ゆは湯小屋の中にあり床を切った浴槽で必ずしも大きくはない。ただ、この湯小屋の後ろが露天風呂になっており、その湯が重く、泥が混じっているようなので、泥湯温泉と言う名称はこの湯から来ているのかもしれない。大野天風呂は小屋に入ると男女の脱衣所に別れ、脱衣場を抜けると、まさに温泉パンフレットにでも出てきそうな、乳白色に幾分コバルトブルーが掛かった壮大な露天風呂が現れる。この温泉はまさか今流行の入浴剤入り温泉ではないだろう。少なくとも源泉は直ぐ近くにある。というか、湯が湧き出しているところに旅館が建っている。
 温泉の紹介はこの位にして。外湯を梯子し旅館に戻ると夕食の時間になっている。食事の場所は玄関傍の大広間にお膳が準備されていた。私は各部屋で食事をするよりもこうして大広間で泊り客揃って食事を取るほうが好きだ。私が膳に付くと注文してあった馬刺しと地酒が運ばれてきた。酒も良し、馬刺しも良し。だが、先程から私を少し憂鬱にしているものがある。膳の真ん中に陣取っている鯉の甘露煮と鯉の洗膾だ。私がこの世の中で一番苦手にしている食物だ。それでも、私はその存在をなるべく無視しようとした。が、魔が差したのだ。酒と馬刺しをたいらげると鯉の甘露煮をつまみ口に入れたのだ。その瞬間、ダメだぁ!私の全細胞が拒否反応を示している。とりあえず口の中のものを紙ナプキンに吐き出し、早々の手でその場から撤退したのだ。
 朝、目を覚ますと先ず朝風呂である。ここで私は自称天才写真家であるのを思い出した。最近はつい忘れてしまう。そこで朝風呂のついでに写真を撮ることにした。ついでと言うと語弊があるかもしれない。だが、天才はものに拘らない。数撃ちゃ当たると言うが、数も撃たない。当たらなければ天才は諦めるのだ。ま、それはいいとして。大野天風呂を出た後、近辺をブラブラしながら写真を撮る。といってもそんなに広い場所でもないし、取り立てて何かある場所でもない。さて、急がないと帰りのバスの時間は9時過ぎだった。
 旅館に戻り急ぎ朝食を食べ、部屋で荷物をまとめて精算のために受付へ。受付には誰もいないのでカウンターの上に乗っているベルを鳴らすと若い男の子が奥から出て来た。9時過ぎのバスに乗りたいので精算を急いでくれないかと言うと、キョトンとしている。もしかして9時過ぎのバスは無いとか。と私が聞くと彼は頷く。しまったぁ。今回「びゅう」に任せたのが間違いだった。しかし、これからの電車の乗り継ぎはこの存在しないバスの時刻に連絡している。私が参ったなぁーと言っていると、その遣り取りを後ろのソファで聞いていた宿泊客が、私の車に乗ったらと申し出てくれた。その客は年配の男性で奥さんにしては若そうな連れが居る。そこで私は気を使い。でも、悪いですからと言うと。その男性は、我々には予定は無いから、何処にでも好きな場所まで乗せてってやるという。私は再びソファに座っている女性を見ると、美人というよりもキュートな、感じの良い女性である。私は、よろしくお願いします。と言っていた。

Yawara Yoshino

[ BACK TO HOME ]