浅草から東武鉄道で鬼怒川・会津田島行き電車に乗り込む。当初木賊温泉を予定していたのだが、出発日の一週間前ではやはり予約が取れない。そこで近辺で適当なのはないかと物色したら湯西川温泉で予約が取れた。朝、9時過ぎの電車に乗ったまでは良かったんだが、乗って直ぐに体調がおかしいのに気がついた。体がだるい。無性に眠いのだ。眠いということに関しては、わたしは日常的に寝不足なのだ。わたしの労働は近代社会ではありえない過酷なものなのだ。ほとんど奴隷労働といっていい。だが今回のこの体のだるさはただ事ではない。明らかに熱がある。病気なのだ。電車に乗り込んでから目的地の湯西川温泉に着くまでほとんどダウンした状態。今では記憶すらない。
12時頃、電車は湯西川温泉駅に着いた。この湯西川温泉駅はトンネルの中にある。エレベーターで地上に出るとそこはロッジ風の湯西川観光センターである。いい忘れたがわたしはアマチュアカメラマンの鑑といわれ、現場に着くと不死鳥の如く蘇るのだ。それはさて置きこの観光センター1階はおみやげ売り場と食堂がある。ま、めずらしくはない。2階が温泉場になっている。そしてセンターの前には足湯が設置されていてみんな自由に足を浸けている。じつは湯西川温泉はこの足湯の側にあるバス停から、バスに乗って山の奥へ25分程行ったところにあるのだ。
この湯西川温泉は平家の落人部落といわれている。平家の落人の資料館や集落、また集落を復元した「平家の里」などがある。わたしは病気にもかかわらず精力的に動いた。まず湯西川沿いの集落の前を歩き、一軒の家の前で豆腐を食べてる観光客のご夫人に、「湯豆腐ですか」と聞くと冷奴だという。「美味しいですか」と聞くと微妙な顔をした。「やめときます」とわたしは言い残して先へ向かう。「平家の里」へ行き入場券を買おうと受付に向かっていたら中年のカップルの男性がわたしに近づいて来た。わたしに入場券の半券を手渡したのだ。チョンボして入れということらしい。わたしはありがたく頂戴した。この辺りではこんな人情がまだ残っていたんだ。
わたしの今夜の宿「上屋敷 平の高房」はこの集落の上の方にある。わたしはブラブラ歩いて行くことにした。今日は朝から天気が悪くどんよりと曇っていて今にも雨が降りそうである。途中、山栗などを拾う。別に意味はない。そのうち仰々しい門構えの旅館に着いた。玄関前の敷地はかなり広い。入って右側には大露天風呂があり、左手には貸切風呂がある。玄関を入るとロビーとフロントは階段を上った上にあるという。フロントで手続きをすると中居さんに案内され階段を上がった直ぐ上の部屋に案内された。ここで道路から見ると三階に上がったことになる。ところがわたしを案内した仲居さんはここが一階だという。確かにわたしの部屋の上にも上階があるようだ。だが、ここが一階だというその根拠は何か。
部屋に落ち着くと直ぐに雨が降りだしてきた。露天風呂は諦めて内風呂に入ることにした。内風呂は別にどうということもない。問題は風呂から上がり暫くすると体調がおかしいのだ。身体がだるい。それでも夕食の支度が出来たというので下の大広間に向かう。私が大広間に着いたときにはほとんどの宿泊客が席についていて、ここの女将だというかなりの年配の、山姥と見間違うような女将が料理の説明していた。わたしは席に着き頼んでおいた地酒を飲みながら料理を口にするのだがまったく味が感じられない。完全に感覚を遣られてしまっている。とりあえず食事を終え部屋に戻った頃は寒気がしだし顔がやけに熱い。高熱がでているんだ。すでに敷いてあった布団にもぐりこむが寒気が収まらない。フロントに言って掛け布団を一枚増やしてもらい、ひたすら額をタオルで冷やす。旅先での病は心細い。
朝、快癒とはいかぬがだいぶ復調していた。朝飯を済ますとそこそこに宿をでる。宿の者に送りましょうかといわれたが辞退して、昨日来た道を山栗を拾いながらブラブラ歩く。別に意味はない。途中、吊り橋があったので渡って行くと7〜8人の観光客が橋の中間で記念写真を撮っている。わたしが近ずくと写真を撮ってくれとコンパクトカメラを渡された。いつものことである。「はい、撮りまーす」いってシャッターを押す。もう一枚撮ってくれといわれ「再び、撮りまーす」といってシャッターを押す。アマチュアカメラマンの社会的義務である。
湯西川沿いを散策しながらバスを降りた湯西川温泉街に戻ってきた。そこでコーヒーでも飲みながら一服しようとしたら商店街は水曜日は休みのようだ。そこで、わたしは・・・。だいたい観光地の商店街が定期休業なんかするかぁ。非国民。だから源氏に負けるんだよ。そんな真っ当なことを呟きながら歩いていると、開いている酒屋を見つけた。「酒処 丸湯」呑み屋みたいな店名だな。店の中を覗いていると、御上さんとおぼしき人が
お茶の支度が出来たので奥へ入れという。からし茶かなんだか知らないが、それと香の物が少し。丁度一服したかったので馳走になる。ただ、手ぶらではでられないので「恋して候」一本と洒落たグラスのワンカップを購入。そうこうしている内に湯西川温泉行きのバスの時間が来た。バスに乗り込むと又体調がおかしい。熱がでて来たようだ。最悪だ。
Yawara Yoshino