大平温泉「滝見屋」

まだ新しい米沢駅舎
この後、命がけのドライブ
何しに来たのか婆二人
下は最上川源流
やっとたどり着いた「滝見屋」
何の前触れもなく下りてくる
手前が男湯、真ん中が女湯、奥が貸切風呂
窓から見える景色
ここで一休み、まだ登るのだ
晩秋 どうもこういう写真は苦手だな
東光酒造 当然、試飲が出来る
米沢駅はレトロな雰囲気の駅舎で、旧米沢高専の校舎を模して新築されたと地元の人から説明された。今回訪れる大平温泉「滝見屋」は、「秘湯の会」発行の本によると、秘湯の中の秘湯と紹介されていたので、秘湯愛好家を自認する私としては、是非一度は行かねばなるまいと決定した。
 米沢駅前に宿の送迎車が迎えに来るのは2時ということなのでまだ時間がある。そこで、毎度のことながら駅前の探索をすることにした。やはり米沢牛と米沢ラーメンの看板や幟が目につく。米沢ラーメンは駅に着いて直ぐに、駅舎二階の物産販売所を覗きに行ったら、一口だけ試食に与った。細切りちぢれ麺の、透き通った醤油スープで、東京ラーメンに似ている。ただ、スープを飲み乾すと独特のコクというか、口に残るものがある。もしかしたら牛骨でダシをとっているのかもしれない。駅舎を出て、時間までゆっくりコーヒーを飲みながらタバコを吸いたいと、コーヒーショップを探し歩いたが見当たらない。しかたなく駅前のホテルのラウンジでコーヒーを注文したら、これが不味い。コーヒーなどといえる代物ではない。とは言うものの、とりあえずはゆっくりタバコを吸えただけでも良しとしなければ。
 駅に戻ると暫くして送迎車が到着した。車体に滝見屋と書いた10人乗りの小型のバンである。客は近郊の婆二人と初老のご夫婦二人、それに私と私の連れの都合六人である。私が最後に乗り込むと送迎車は直ぐに出発した。車は暫く市外を走っていたが、その内、吾妻連峰北側斜面を登り始める。車一台がやっと通れる道幅である。当然、片側斜面は崖下である。そして今回は急坂に加えてヘアピンカーブの連続である。私の前に座っている婆二人が、遠慮会釈なくギャーギャー騒ぐ。車は坂道を登りつめると、いっときき平坦な林の中を走り、今度は下り始めると直ぐに、道の脇の僅かなスペースに乗用車が2〜3台停まっている。その先に今度は車2台がやっと停められるスペースがあり、そこに送迎車は入り停車した。我々は送迎車から降りると、ここから渓谷の渓流沿いにある旅館まで歩いて下りていかなければならない。送迎車の運転手さんは15分だというが、我々観光客は20分以上は掛かるだろう。かなりの急勾配の下り坂である。それでも周りの景色を眺めながらのんびりと下りていく。殆どの木々は葉を落とし紅葉の盛りは終わっているが、名残りの紅葉が転々と見られ、これはこれで綺麗である。気がつくと送迎車の中で一貫して喋り続けていた婆二人の声がしないので、心配になって振り返ると黙々と歩いている。既に喋る気力もないようだ。(帰りは無理だろうな)
 最上川源流に架かるつり橋までたどり着いた。目の前に赤い屋根の「滝見屋」が見える。イメージしていた鄙びた一軒宿とは感じが違う。渓流沿いの露天風呂では男性客が2人、裸で岩の上に座り渓谷を眺めている。つり橋を渡り宿に近づくと突然、「危ないから避けて」という宿の人の声で振り返ると、我々が送迎車に置いて来た手荷物がロープに吊り下げられ送られてきた。宿に入ると直ぐに玄関ロビーから二階に上がって直ぐの部屋へ通された。思っていたより良い部屋である。窓からは渓流が眺められ、真下の露天風呂の入浴客が良く見える。
 早速、露天風呂へ。露天風呂まで来ると中年の夫婦が近づいてきて話しかけてきた。この先の滝を見に行って来たんだが危険なので引き返していたという。(正しい判断である。我々秘湯愛好家は山岳部ではない。)ただ、奥さんの方がかなり興奮している。目の前にニホンカモシカが出たんだという。本当に直ぐ近くで見たといい。お風呂からも見えるかもしれないという。そうですか。ニホンカモシカが出たんですか。私はとりあえず奥さんの感動に同意しつつ露天風呂へ。
 浴衣を脱ぎながら成分表に目を通す。源泉かけ流し。湯温は63度。良いではないか。温泉としては理想的ではないか。本来、温泉というのはこうでなくてはいけない。循環風呂や沸かし湯、入浴剤を入れるなどもってのほかだ。露天風呂の真ん中からボコボコと湯が噴出している。湯量も豊富だ。風呂の温度は高めだが露天風呂ならこのぐらいの温度が理想的だ。
 露天風呂から上がり部屋に戻るが、ここへ来てからひとつ問題が生じている。備え付けの石油ストーブの調子がおかしいのだ。開始を入れてから10分もすると、ピッピッと鳴り出し赤く「換気」と表示さる。その内「エラー」が表示されて、強制的にストーブが消えてしまうのだ。私は意地になって、火が消える度に開始ボタンを押し続けていたが、帰る間際になって、設定温度を上げとけば良かったかも知れないと思いつき、それを試せなかったことが唯一の心残りだった。
 石油ストーブと格闘しているうちに夕食の時間である。一階ロビーの奥の広間が食事場所である。私が行った時には既に宿泊客の殆どが各自のお膳についていた。客は十数人はいただろうか。私が思っていたよりも多かった。滝見屋は5日後、11月5日には冬季休業に入る。料理はそこそこだが、そこそこでいいのだ。料理が食べたければ料理屋へ行けばいいのだ。客は殆ど中年か初老。若い人は20代後半か30代前半と思われる男性が2人。その内の一人は一人で来たようで、あとの一人は年上の女性と同伴である。客同士の話題はやはり秘湯。お互いに行った秘湯の情報交換である。私は今回は聞き役にまわり、注文した冷酒を飲みながら穴場はないかと聞き耳を立てる。これといって収穫はなかったが・・・。
 食事も済み部屋へ戻って一服しているうちに、予約して置いた貸切風呂の時間である。浴衣姿でタオルを引っ掛け、サンダルを履いて玄関から野天風呂へ。三歩、四歩、五歩。なぜか体が前屈みになり体の自由が利かない。奥歯がガクガクいいだす。なんだ?。遅れて脳が反応する。寒い!。私はよろけながら、それでも必死に温泉に向かう。もう、撤退は出来ない。何とか露天風呂までたどり着き、死に物狂いで浴衣を引っ剥がし、温泉に飛び込む。助かったぁー。天国だ〜。熱めの温泉が功を奏し、丁度いい温度ではないか。しかしこの寒さは何だ。私は、すっかり忘れていたが、ここは標高1050メートルだった。20分以上も湯に浸かっていただろうか。もう外へ出るのは否だ。だが、さすがに胃がむかついてきて湯あたり気味だ。覚悟をきめて湯から上がる。温泉で体が温まっていたせいか帰りは順調に旅館の玄関まで戻って来た。玄関ロビーのカウンターの上にある貸切風呂の予約ノートを見たら。案の定、夜は私たち以外の予約は入っていない。
 部屋に戻ってきてテレビをつける。別に何かを見るというわけではないんだが。ところで、この旅館には各部屋にテレビがあってちゃんと映るのだ。べつにテレビがあって映るということは不思議ではないが、ここは標高1050メートルの渓谷の一軒宿だ。どうなっているのか宿の人に聞いとくべきだった。とか、くだらないことを考えているうちにいつの間にか眠ってしまった。
 昨夜、早めに寝たせいか早く目が覚めてしまった。まだ誰も起きてきていないようだ。一人のんびり内風呂に入り温泉気分に浸る。じつは、昨夜の一件があるので露天風呂は避けたのだ。できたら露天風呂に入りたかったが。風呂から上がり部屋で身支度をし、朝の景色を眺めたりしていると、いつの間にか時間がたち、宿の人が朝食の準備が出来ましたと声を掛けにきた。昨夜の広間に入ると、泊り客は全員席についている。今朝の話題は、ここへ来るまでのヘアピンカーブの恐怖対談だ。自分で車を運転してきた人達は、今日は天気が崩れるそうだから、下りで落葉が滑るとキツイと話し合っていた。客の中でいちばん怖がっていたのは、私たちと送迎車に乗ってきた初老のご夫婦だ。確かに送迎車の運転手は慣れているだけに乱暴だった。年上の女性と一緒に来た青年が見兼ねて、ゆっくり下りるから自分の車に同乗するように誘い話がついたようだ。
 食後、ロビーで女将さんの淹れてくれたコーヒーを飲んだが、今回の旅行でいち番まともなコーヒーだった。部屋に引き上げてきて一服してから急いで帰り支度だ。送迎車の出発は9時、それまでにたどり着かないと。玄関に出ると女将さんが出てきてまだ早いんではないかという。20分もあれば登れるという。私は写真を撮りながらのんびり登るからと弁解しつつ玄関を出たが、やはり素人は30分は見たほうがいい。
 予想通り勾配がキツイ。早めに出て来て正解だった。ここは焦らず晩秋の景色を眺めながら楽しみながら登る。それでも9時少し前に送迎車のところへ着いた。少し肌寒いので勝手に送迎車に乗り込み例の婆たちを待つ。9時をとっくに過ぎているのに婆たちが来ない。その内あの賑やかな声とともに婆たちが宿の者に付き添われて着いた。送迎車に乗り込むなり、あたしゃ途中で一度心臓が止まったなどとのたまわっている。(ずーと止まってりゃよかったんだ)なにはともあれ出発。下りは運転手さんは慎重である。脱落者が出たのを気にしているのかも。
 送迎車は山を下りたところで途中滝見屋の実家に立ち寄る。ここで旅館で預けた手荷物を受取るのだ。先に出た自家用車の人たちもここで待っている。ここで私たちも荷物を受取り送迎車で米沢駅へ。今回の秘湯の旅はこれで終了だが、米沢は初めてなので市内見学をすることにした。
 まずは、当然ながら地元の蔵元を訪ねる。「東光」酒造である。市内巡回バスに乗り東光酒造の手前のバス停で降りる。近づくと資料館なども備えかなり立派な建物である。とりあえず入館料を払い資料館に入る。もともと私は壷だとか樽だとか酒造りには興味がない。目的はただひとつ試飲コーナーである。ところが相手も先刻ご存知で試飲コーナーは見学コースの最後になっている。私も大人だ。興味がなくてもひと通り見て回り試飲コーナーへ。そこで直ぐ飛びつくほど私は酒に卑しくはない。土産物のぐい呑を物色したがこれというものが見つからずやむなく塗枡を購入。やっと試飲コーナーへと思ったら、私の連れが既にボトル三本を並べ、酒を飲み比べているではないか・・・。
 東光酒造を出て歩いて上杉神社へ。そういえば街のあちらこちらに上杉鷹山という名が出ていた。江戸後期の米沢藩主だったと記憶している。きっと米沢の人には愛された名君だったんだろうと理解するが、根拠はない。紅葉の上杉神社を参拝して米沢の繁華街を散策しながら米沢駅に戻ってくる。帰りの新幹線の乗車券を購入して、待ち時間の間にお土産を買い、腹ごしらえ。じつは、米沢に来てから米沢牛のステーキを食べようと思っていたんだが、体調のせいか獣臭さが鼻について食べる気がしない。そこで駅前の中華そば屋でラーメンを注文。これがまぁまぁの味。ただ、ソバの量がやたらと多い。全部食べ切るのに一苦労だった。新幹線に乗る前に駅弁の牛丼弁当「牛肉どまん中」を購入。因みに肉は当然米沢牛で上四分の一はソボロ。どまん中というのは「どまんなか米」のこと。これも新幹線の中で食べたがまぁまぁの味。べつにステーキでなくても十分満足できた。  

Yawara Yoshino

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