東京駅を9時過ぎの東海道新幹線で名古屋へ、名古屋でひだ号に乗り換えた。当初、気象庁は今年は温暖で桜の開花は例年より早いと発表していた。そこで旨くすれば高山で、もつと旨くすれば白川郷で花見が出来ると思っていたんだが、気象庁が計算を間違えたとのことで例年並の開花に変更した。旅行に出る数日前には上野の桜も満開になったが、寒さがぶり返し天気予報は寒の戻りだと報じていた。それでも岐阜から下呂温泉にかけて電車の窓から六・七部咲きの桜が観賞できた。下呂温泉を電車が出た頃から天候が怪しくなり空が曇りはじめてきた。高山に1時過ぎに着いたが駅から出ると予想したより寒い。花見どころの騒ぎではない。まず駅の左手にある濃飛バスセンターで新穂高行きのバスの時間を調べ、平湯までのバスの切符を購入する。奥飛騨温泉郷は一番奥に新穂高温泉、福地温泉、そして平湯温泉。福地温泉には私が飛騨高山に来たときに泊まる定宿が在る。今回の宿泊地は平湯温泉である。土産物屋を覗いたりトイレに行ったりしている内に新穂高行きのバスが入ってきた。早速バスに乗り込むと何処にいたのか次々に乗客が乗り込んできた。バスは高山市内を抜け山道に入る。安房峠を越え松本へ向かう158号線である。山道を走っていると所々に雪が残っている。遠くの山並みは真っ白である。細かい何かが舞っている。雪だ。約1時間でバスは平湯バスセンターに到着した。バスから降りると頬がピリピリする。明らかに零度以下だ。私は直ぐにバスセンター内に逃げ込む。バスセンターには土産屋やレストランそれに温泉施設も備えている。まさに完璧だ。私は先ずレストランで珈琲と高山ラーメンを注文した。客は私と一緒にバスを降りた中年のご婦人三人のみ。ところで此処の高山ラーメンだが寒かったせいもあるが旨い。珈琲を飲みながらこれからの予定を検討する。ここから158号線沿いを歩いて20分の所に神の湯という温泉場がある。秘湯愛好家の私としてはとりあえず行ってみようと決意し、バスセンターから出たとたん小雪が激しくなり寒さが一段と増している。今回は冬支度をしてこない。これはヤバイ。即、予定を変更。今日宿泊する岡田旅館に向かう。岡田旅館はバスセンターから3分ほどのところにある。
今回のような観光旅館は普段は敬遠するのだがあまり拘るのもどうかと思い今回は敢えて泊まってみることにした。玄関を入りフロントでチックインしてエレベータで4階へ。案内してくれた仲居さんによると、この部屋は見晴らしが良い部屋だといっていたが、今日の天気では何も見えない。まずは一階に在る温泉へ。湯上り後の休息所も脱衣場も、よく整理され清掃もいきとどいている。風呂場は大浴場に露天風呂があり。私は露天風呂に入った。ただ此処で一つ問題があった。私はいつもの習慣でコンパクトカメラを持ち込み裸のまま露天風呂を撮っていた。外は零度以下で小雪が降っているのをつい忘れていた。気付いて露天風呂に入ったが感覚が麻痺して暫く湯の温度が全く感じられない。風邪を引かなかったことが奇跡である。
時間が経つのが否に早い。温泉から出てきて一休みしていたら夕飯の時間になったような気がする。一階の食事処に行くと各部屋に分かれている。私の好みとしては大部屋で泊り客の顔が見えたほうが良い。料理は会席風(この風というのがミソなんだが)。それに飛騨牛のスキ焼きがついた。とりあえず頼んだ日本酒の冷がやけに効いた。食事が終わり部屋に戻るとすぐに寝てしまった。最近疲れている。朝、四時半に眼を覚まし五時には露天風呂にはいりに行った。さすがに人気がない。星が見えるので今日は良い天気だろう。温泉から上がり部屋に戻ると窓から朝日に輝く白い山が見える。ま、絶景とまでは言えんが・・・。絶景といえばお決まりの朴葉みそで朝食を済ませ、サービスの珈琲をロビーで飲んでいると、そのロビーの裏側が一面のガラス張りで、そこから見える真っ白な山並みこそ絶景であった。
今日は良く晴れている。岡田旅館を出て平湯バスセンターへ向かう途中、158号線にぶつかる。昨日断念した神の湯を思い出し安房峠に向かって歩き出す。今日の泊まりは高山だし、高山市内の見学といっても行き慣れた場所である。そんなに急いで行く必要もない。途中、平湯民族館と平湯神社の前を通り道路沿いを歩いていくと道路が山にぶつかる所に神の湯の看板が出ていた。そこを右折して雪道を歩いていくと除雪車がちょうど道を作っているところだった。除雪車の脇をすり抜けやっと神の湯に着いたがまだ閉鎖されている。昨日あの吹雪の中を来なくて良かった。来てたら温泉には入れないはで帰りには路傍で凍死していた。とりあえず場所を確認して雪道を158号線の看板が出ているところまで戻って来た。ところが山の天候は変わりやすい。あんなに晴れていたのがいつの間にか小雪が舞い始めた。平湯バスセンターまで急ごう。
平湯バスセンターに着いたら高山行きのバスがすぐに来ました。雪は降ったり止んだりしているが高山駅隣の濃飛バスセンターに到着。先ず珈琲でも飲んでひと休みしたいので、タレントの清水ミチコの弟がやっている喫茶店「if」へ。店内には古時計が沢山飾られていて、店の女の子は細身でボーイシュな可愛い女の子達であるが愛想が良くない。と、いうか。ま、私がおじさんだから仕方がない。おじさんになるということは、それを耐えることから始まる。喫茶店を出ると直ぐに上三之町に向かう。上三之町へ来ると又雪が降り始めた。街を散策しながら目的の買い物を済ませる。民芸調の盆に入った灰皿と一位一刀彫の根付。それに鬼ごろしの蔵元で酒盃と生酒を一本。やはり趣味趣向がおじんだ。上三之町に来ると必ず寄る喫茶店はばれん。古民家を改装した小さな喫茶店である。その二階のいつものテーブルに座る。格子窓から外を見ると一段と雪が激しく降っている。今日の宿泊は高山市内のホテルアソシアである。高山市内のホテルといっても多種の温泉風呂を備えている。早目にホテルに行ってゆっくりと休むことにした。
高山駅まで戻ってくると、最初は気付かなかったが、駅の横にはホテル直営の喫茶店があった。ホテルのシャトルバスは駅の前から定時運行されていて乗り込むとホテルまでは10分程度で着いてしまった。フロントでチェクインを済ませ、夕食はホテル内の日本料理店「華雲」の6時の予約を入れる。部屋はデラックスツインルームを予約しておいた。あれ、と何か疑問に思った人は今回は軽く聞き流しほしい。部屋に入ると先ずカーテンを開けソファーの上でごろ寝。やはりホテルが一番リラックスできる。とすると私の自称秘湯愛好家としての立場はどうなる。ひとしきり部屋でごろごろした挙句、早めの夕食を予約したので2階にある華雲へ。まぁ良くある高級日本料理店だ。私が注文して置いたのは飛騨牛会席。今回の旅行は飛騨牛尽くしだ。旬のものと飛騨牛の刺身、飛騨牛の寿司、最後に飛騨牛を焼いて食べたような気がする。他にも何かあったようだが忘れてしまった。ここで昨夜の岡田旅館の会席風だが。比較するのは可愛そうだがやはりプロとアマチュアの差がある。料理などどうでも良い、温泉があれば・・・。という常日頃の私の発言と矛盾するのでこれ以上は止めとこう。
ここは5階7階に温泉施設がある。そして色々な温泉風呂が誂えてある。私は食事を終え部屋に戻ると温泉に入りに行くことにした。エレベーターを6階で降り階段のところまで来ると、この時間7階が男性用5階が女性用になっている。時間によって変更するのだ。階段を上がり脱衣場で服を脱ぐが空いてるようだ。私が内風呂にはいりに行くと先客が風呂から上がってきた。見るからにアメリカ南部のおっちゃんだ。暫く天国天国と浸かっていると後ろに樽風呂があるのに気がついた。私が内風呂から出て樽風呂に近づくと入ってた男が出て行った。ヤンキーだ。先程のおっちゃんの息子かも。樽風呂から出て脱衣場に戻り岩風呂の在るドアを勢いよく開けたら、今度は均整の取れたスパニッシュのお兄ちゃんがびっくりして振り返った。岩風呂は確認しただけなのでそのままドアを閉め服を着て6階の階段フロアまで来ると、今度は品の良い(イングランド系かもしれない)夫婦がいたので風呂の説明をして部屋まで戻って来た。何で私が説明しなければならない。言い忘れたがこのホテルへ来るときに乗ったシャトルバスから殆どの客が外国人であった。なんとか日本人がいたと思うと中国語が聞こえたりする。とりあえず明日早いので寝ることにする。
朝、眼を覚ますと直ぐにシャワーを浴び2階の洋食のレストランに朝食を食べに降りたが外国人がづらりと列を成している。やむなく夕べの華雲で日本食の朝食を食べに入る。私のテーブルの隣が老夫婦を伴った家族が座っている。微笑ましく思っていると急に全員が英語で喋りだした。日系だ。まるで冗談みたいな話だ。そんなことはもういい。急いでチェックアウトし高山駅へ行かないと。確か白川郷行きのバスは8時45分頃だったはず。バスは予約制なのだ。
濃飛バスセンターで座席番号を貰いバスに乗り込む。左側のいちばん前だ。一ヶ月位前に予約したのが早すぎたのかもしれない。右側のいちばん前の席は若いカップルだがアメリカ人ではなさそうだ。と、言うのも白川郷に着くまでの約2時間、きちんと足をそろえて座っている。この行儀の良さはアメリカ人にはない。因みに私は日本人だが通路に足を投げ出していた。私たちの後ろが中国人の女の子たちのグループ。日本の女の子たちと同じ様に賑やかだ。その内静かになったかと思うとみんな口を開けて寝ている。
バスは合掌作りを模した白川郷観光協会傍の停留所に到着した。風が冷たい。東京では真冬の温度だ。気を取り直し庄川に掛かるであい橋を渡り荻町合掌集落へ。真っ直ぐ明善寺まで歩いてきたとこで明善寺を正面から見渡せるところにギャラリー郷愁というのがあり珈琲が飲めそうなので入ってみた。これがいけなかった。珈琲が不味い。挙句の果てに二階のギャラリーも観て行けと半分強制。仕方なく二階に上がると合掌集落の四季を撮った写真が展示してあった。ま、いいんじゃないすか。早く出たい。店を出て合掌集落を散歩。じつは昔いち度白川郷に来ている。勿論まだ世界文化遺産にはなっていない頃だ。合掌集落が残っている朽ち果てた寒村だった。そのイメージが残っているのかここへ来てからなにか違和感がある。全体に明る過ぎるのだ。まるで一大テーマパークである。何か違う。そんなことを考えながらも腹が空いてきた。そば処乃むらという蕎麦屋に入る。荘川そばと張り紙があったので注文し食べ始めた時に中年の夫婦と思われる二人連れが入ってきた。メニューを見ながら英語でしきりに尋ねるのだが店の女将さんと思しき人はまるっきり英語が通じない。男性の方が時々私の方を見るのだがその度に私は視線を外す。旅に来て甘えちぁいけない。
Yawara Yoshino